―ガチャッ…

「ただいま。」


家に帰り、バッグを肩から降ろした。



『亜里沙。
今日、大我と一緒じゃなかったのか?』



大我さんと一緒に居るのは、俊ちゃんも公認らしい。


あの人がどんなマジックを使ったのかは知らないが、

俊ちゃんは一体どんな顔をしてそれを承知したのだろうか。


聞いてくる俊ちゃんの顔は、何故か悲しそうにも見えて。


そんな顔の俊ちゃん、あたしは嫌いだった。



「…関係ないじゃん。」



だからあたしは、いつもその顔を見ようとはしない。


どんどんどんどん、憎む気持ちが薄らいでいる気がするから。



『…亜里沙…』


あたしの名前を呼ぶその声に、やっぱりビクッと反応して。


未だに胸がザワついてしまう。


怖くない、と。


思ってるはずなのに。



「―――ッ!」


瞬間、後ろから抱きすくめられた。


何が起きたのかわからず真っ白になる頭に、煙草の匂いがフワッと香る。


ドクドクと脈打つ鼓動は、あたしのものか、俊ちゃんのものか。


ただ、何をされるのかわからなくて。


相変わらず、指の先さえ動かすことが出来なくて。



「…俊、ちゃん…?」


回された腕に捕えられて。


あたしの肩に顔をうずめた俊ちゃんの前髪が、鎖骨の辺りをくすぐった。