《短編》家出日和

連れて来られた場所は、ラブホテル。


初めてこんな場所に来たあたしにも、

このさびれ気味の街に似つかわしくないほどにこの部屋は、

別世界のようにお洒落でエロく作られていることはわかった。


立ち尽くすあたしをよそに俊ちゃんは、

勝手知ったるようにベッドに腰を降ろして。



『来いよ、亜里沙。』


呼ばれあたしは、その場所まで足を進めた。


ベッドに後ろ手を着いて俊ちゃんは、目の前に立つあたしを見上げて。



『助けてやったんだから、言うことあるだろ?』


「…あり、がと…」


瞬間、あたしの腕が引っ張られて。


気付いたら、寝転がる俊ちゃんの体の上にうつぶせる格好になっていて。


その心臓の鼓動を感じる。



『…亜里沙囲まれてるの見て、普通に焦ったんだけど。
あんま心配さすなって。』


「―――ッ!」



怒られるのかと思ってた。


不意に早くなった心臓を誤魔化したくて。



「…ごめん…」


何だかわかんないけど、そんな言葉が口をついた。


だけど良く考えたら、あたしが悪いわけじゃないんだけど。


俊ちゃんの鼓動が聞こえる胸に顔をうずめていると、

どうしてもそれが言えなくて。


あの時俊ちゃんが助けてくれて、少しだけ安心したから。



「…ちょっと…怖かったんだ…」


『珍しく素直だな。』


「―――ッ!」


優しい声と共に、頭を撫でられて。


今日のあたし達は、ホントに変だ。