『―――亜里沙!
一緒に帰ろうぜ!』


一週間休み、やっと来れた学校が終わると、

待ちに待ったみたいな顔した圭吾が声を掛けてきた。


俊ちゃんにつけられたキスマークも、

もちろん圭吾につけられたキスマークも消えた。


消えれば何もかも、幻なのかと思ってしまう。


そんなことが、少しだけ悲しかった。




圭吾と一緒に校庭を歩けば、みんなが避けてくれるから。


それも少しだけ、気分が良かったのかもしれない。


当たり前のように一緒に居て、当たり前のように求められる。


そんな“普通”が、あたしには堪らなく嬉しかったのだろう。


だけど、やっぱり簡単に壊されるんだ。






「…俊、ちゃん…?」


校門の手前まで行き、目を見開いた。


恐ろしく黒塗りの高級車と、それが似合いすぎるスーツにサングラス。


どこの怖い人なのかと思うほどのいでたちで、

俊ちゃんは車のボンネットに腰をつけて煙草を吹かしながら佇む。


その姿を遠巻きに見てヒソヒソと会話をする生徒たちもオプションとなり、

あたしはため息を混じらせた。


隣には、言い訳も出来ないであろうあたしの腰に手を回した圭吾が居るんだから。



「…帰ろう、圭吾。」


それだけ言い、目線を外して圭吾に声をかけた。


戸惑いながらも圭吾は、あたしに合わせて足を進める。


サングラス越しにも、きっと睨んでいるであろう顔は容易に想像出来るから。


まさか、こんなことまでされるとは思ってなかったけど。