「触らないでよ!」


『―――ッ!』


その手を振り払うことに、どれだけの勇気を要しただろう。


言った後、俊ちゃんの顔を見ることが怖かった。


また再び、あんなことを繰り返されるのではと思うと、

強がっていても手が震えて。



『…そんなに俺が憎い?』


だけどそれだけ聞いた俊ちゃんは、煙草の煙を吸い込み吐き出した。


長い長い沈黙は、一体どれほどだっただろう。


ずっとずっと、空気は張り詰めたまま。


指先はまるで、血が通っていなのかと思うほどに冷たくなっていて。


相変わらずあたしは、その顔を見ることが出来なかった。


まだ下腹部に残る俊ちゃんによって与えられた痛みが、ひどく疼くのを感じて。



『…大嫌い、って顔。』


“してるな”と俊ちゃんは、微かにそう呟いた。


力なく、かすれた声で言った俊ちゃんにあたしは、恐る恐る顔を上げた。



「―――ッ!」


あたしの瞳に映る俊ちゃんは、何故か悲しそうで。


理由もわからないのに、その瞬間に先ほどより更に息苦しくなって。


あたしをこんな風にした張本人が、何故傷ついた顔をするのだろう。


今更、罪悪感にでも苦しんでいるとでも言うのだろうか。


そんなの、身勝手すぎる。



「…最っ低だね…」


呟きあたしは、唇を噛み締めた。


もぉ何もかも、戻すことは出来ないんだ。


昨日までの俊ちゃんも、そんな俊ちゃんが大好きだったあたしも。


もぉ、どこにも居ないんだから。