―ガチャッ…

「―――ッ!」


玄関のドアを開ける金属音に、再び体が硬直した。


恐る恐る振り返ると、煙草の煙をくゆらせた悪魔がこちらを睨む。



『…デート、行かなかったんだ?
まぁ、あんなんじゃ無理だろうけど。』


「―――ッ!」


瞬間、唇を噛み締めた。


そしてあたしは、その瞳をきつく睨み返す。



『死ぬとか出ていくとか、馬鹿なこと考えてんじゃねぇぞ?』


そう言って俊ちゃんは、あたしと同じ目線の高さまで腰を降ろした。


握り締めた精液の匂いのするタオルに、あたしは何も言えなくて。


煙草の煙が近付く。



「…何で…あんなことしたのよ!!」


『…何でだと思う?』


声を荒げるあたしに、だけど俊ちゃんは顔色ひとつも変えなくて。


次第に心臓の鼓動が増すのが分かる。



『誰が男作れっつった?
俺の世話だけ焼いてりゃ良いんだよ。』


「―――ッ!」


その時の俊ちゃんの顔は、今でも上手く言葉では表現出来ない。


ただ、冷たい目をして言葉を紡ぐ俊ちゃんに対し、

今までとは別人なのかと思ったことだけは覚えている。



『なぁ、亜里沙。
俺が何不自由なく育ててやってるだろ?
今までみたいに、俺の言うこと素直に聞いてりゃ良いんだよ。』


「―――ッ!」


ため息を混じらせてそう言う俊ちゃんは、

狂っているのだと思った。


あたしに、まるで自分の玩具のようになれとでも言っているのだろうか。


壊れモノでも扱うように俊ちゃんは、あたしの頬を優しく撫でて。


またあたしは、捕えられたように動けなくなってしまう。