そんな中、人混みをかきわけて、私にヒールを届けてくれた男子高生がいた。
「これ、あなたのですか?」
戸惑いがちにヒールを差し出す少年に、私は満面の笑みで言った。
「ありがとう。
慣れない靴だから、歩きにくくて」
すると少年は笑って、
「気をつけて下さいね、じゃあ」
と、颯爽と電車に乗った。
真新しい制服に身を包んだあの少年がまあくんだったのだと、いま初めて知った。
まあくんは思い出し笑いをして、
「入学初日から面白い人がいるなーと思いましたよ」
と、肩を揺らす。
恥ずかしくなり私は、
「だって、あの時は仕方なかったんだよ!」
と、反発してみせた。
「そんなとこが可愛くて、放っておけないと思いましたけどね」
まあくんは愛しげな目を私に向け、
「バイトすることにしたのは、たまたま入ったあの店で、ウェイトレスとして働いてる吉住さんを見かけたから。
店員の吉住さんと仲良くなりたい一心で、店に電話もせず履歴書も持たないで、直に店長呼び出してました」
まあくんがバイトすることになったのには、そういう裏事情があったのか。
「その時はまだ15歳だったからダメって言われたんで、秋に16の誕生日が過ぎてからすぐ、履歴書持って出直しました!
そしたら、吉住さんが俺の教育係をしてくれることになって……。
吉住さんと話せてテンション上がるし、テンパるしで、毎日ハンパなかったけど、絶対迷惑かけられないなって思って、頑張ったんすよ」
一生懸命に話すまあくんを見ていたら、いろんなことにマイナス感情が湧いていた私の胸は、あたたかくなっていった。


