ただでさえ、芳のことで不安定な気分になってる。
そんなときに優しくされたら、揺らがない自信がない。
芳と付き合ってからの私は、幸せと同時に、精神的なもろさまで手に入れてしまったようだ。
芳と付き合う前は、こんなに弱くなかったもん。
結局、いろいろ言い合いつつも、まあくんを自室に呼ぶことにした。
「おじゃまします……」
家族に気をつかっているのか、初訪問の家に緊張しているのか、小声で玄関をくぐるまあくん。
それが何だか面白くて、ちょっとだけからかってみる。
「まあくんって、何か可愛いね」
「また、そういうこと言うんすか!!」
小さな声でそんなやり取りをしつつ、私の部屋に着いた。
適当に座ってもらうと、長い道のりを走って汗をかいてるまあくんにタオルを差し出した。
さっきまであんなにしゃべっていたまあくんの動きが、ぎこちない。
「すいません」
タオルを受け取り汗を拭いているまあくんの姿に、胸の奥がギュッとしめつけられた。
話すことが思いつかず、まあくんの横顔を見ていると、その目線はある一点でかたまったまま動かなくなった。


