「ねぇ、暖流って何だっけ」

テスト当日の朝、わたしは彼に聞いた。

彼って言っても彼氏じゃなくて、ただの幼なじみ。

…わたしは、好き、だけど…。

「暖かい流れのことじゃね?」

「えー、適当!」

出会ったのは小学一年生のとき。

わたしの帽子が通学路にある家のパラボラアンテナに引っかかったときに、取ってくれたのが彼だった。

その姿がとてもかっこよくて。

そのときからわたしは彼に恋をしている。

まぁ、当時からあまり進展がなく、今もただの友達のまま。

「おーい、なに止まってんだよ! 置いてくぞー!」

「え、待ってよー!」

慌てて走り出すと、思いっきり転んでしまった。

転んだ拍子にわたしの帽子が風に乗って、近くにあったパラボラアンテナに引っかかった。

「あっ、わたしの帽子!」

「はぁー、バカだな。しょうがないから取ってきてやるよ」

あ、あのときと同じだ。

あのときも塀に上って——

「気をつけろよ」

そう言って帽子を差し出してきた。

「あ、ありがと」

あっ、照れてる。

「暖流ってさ」

「ん?」

「暖かいだろ。だから暖流なんだよ」

「なによ、いきなり。意味分かんない」

でも、分かるよ。

わたしたちも、いつか暖かい流れに乗るといいね。