女王様のため息

『うわっ。すごい風』

思わずそう呟いて、桜の木を見上げると、頭上には風に舞い踊る桜の花びらが見えた。

薄いピンクの花びらが風に乗って円を描くように舞い落ちてくる。

『きれい……』

両手を目の前にかざして、落ちてくる花びらを手のひらでつかまえると、ほんのりと甘い香りがする。春の匂い、だ。

もう一度見上げると、ゆっくりゆっくりと私たち目指して落ちてくる花びらたちに包まれて、まるで桜の雨に降られているように感じた。

『……桜の姫さんだな』

ぼんやりと、桜の花びらにひたっていると、いつの間にか立ち上がって、私の目の前にいる男の子が私の頭に落ちていた桜の花びらをはらってくれた。

私よりも20センチくらいは高い身長を見上げると、寝顔通り、整いすぎていて嫌味な顔がそこにあった。

決して甘い顔ではないけれど、意思が強いとわかるその顔は私の赤いネクタイを見ながら

『姫さんも、新入生?』

『うん。2組だって』

『そっか、俺と一緒だな。これからよろしくな』

そう言って、彼は胸元に緩くかかっていたネクタイをキュッとしめた。

私は、そんな仕草にどきっとして思わず視線を足元に落としてしまった。

そんな淡い、かわいい思い出を共有するのが、海。

そう、入学式で海の寝顔を見て以来、私たちの、特別に仲の良い距離感での付き合いが始まったんだ。