女王様のため息


私と海は、高校一年生の時に出会った。

例年よりも遅い開花だった桜がまだまだ綺麗に咲いていた校庭の片隅で、まるで桜吹雪に守られるように眠っていた海。

桜が大好きな私が、引き寄せられるように桜の木々に近づくと視界に入ったのは紺色のブレザーだった。

まだ新しいブレザーを無造作に地面に置いて、木の下で眠っている男の子が目に入った時、一瞬なんなのかわからなくて驚きよりも不安の方が大きかったけれど、どう見ても桜の華やかさに負けていない整った寝顔に見とれてしまった。

『入学式始まりますよ』

緩く結ばれていたネクタイの色は、新入生の私と同じ赤で、同級生、新入生だとわかった。

あと15分ほどで入学式が始まる。

体育館に入らなければいけないのに、こんなところで寝ている場合ではない。

『起きてください』

そっと近づいて、寝顔を覗き込みながら声をかけると、眠りから覚めたのか、うーん、と唸り声をあげながらゆっくりと目を開けた。

ぱちぱちと、目の前にいる私が理解できないように何度か瞬きを繰り返しながら、徐々に覚醒されていく意識。

目の前の男の子の目覚めていく様子をじっと見ながら、なんだかおかしくなってきて、くすりと笑ってしまった。

瞬間、男の子は怪訝そうに眉を寄せて、

『お前、誰?』

低い声が届いた。

そして、その声が私の耳元に響いたと同時に、桜の花びらが舞い散るほどの風が吹いた。