女王様のため息

私の言葉を聞いて、海はつらそうな顔を隠そうともしなかった。

「そっか。好きな男だもんな、そりゃ嬉しいよな」

そう言い添えながらも、海自身の本音は別のところにあるとすぐにわかるくらいに苦しげな声だった。

恋人がいる男に思いを寄せながら、気持ちを張りつめつつ過ごしている私の事を誰よりもわかっている海だから、私を責めるような言葉は何も言わない。

ただ、私が少しでも気持ちを楽にして、日々笑って過ごせる事だけを望んでいるはずで。

そんな海の優しさを利用するかのように甘える私って、本当に弱いと思う。

海が私を突き放さないって知ってて、自分の気持ちを楽にするために正直になるのは、ずるい女のする事だ。

それは、わかっているけれど。

「でも、そろそろ、潮時だろ。恋人と別れる気配もない男に気持ちを縛られたままだと、真珠が幸せになれるタイミングを見逃すことになるぞ」

「ん……わかってる」

わかってる。司を恋人から奪うなんて考えられないし、私を選んでくれるとも思っていないから、司に気持ちを揺らされて、未来への新しい扉を閉じてしまっているとも気づいてる。

潮時という言葉が正しいのかどうかはわからないけれど、私が一番よくわかってる。

「俺が、幸せにしてやれたら一番なんだけどな」

「え?」

ふと漏らした海の声は、二人の間で隠している気持ちをほんの少しだけ露わにしてしまう。

「高校の時、無理矢理にでも俺たちが気持ちを繋いでいたら、何か変わってたのかな。……二人とも、幸せになってたのかな」

「海……」

「時々、思うよ。高校生の幼い恋愛ごっこから、ちゃんとした大人の恋愛に育てていけたんじゃないかって。自信のなさに負けてしまって……今となっては遅いけどな」

苦笑して、肩をすくめて。

まるで高校生の時の、少年のような表情を思い出させる海の笑顔は、あの時に無理矢理封印した、私の淡く切ない想いをよみがえらせた。