「お、おい、真珠?どうしたんだよ突然、え?泣いてるのか?」

頭上から聞こえる司の声は慌てていた。

司は私の両腕を掴むと、そっと私を引き離した。

「やっぱり泣いてる。どうした?」

私の顔を覗き込んで焦っている司の顔をちらりと見た後、やっぱりだめだとばかりに再び抱きついた私は、二度と離れないとでもいうような力で司にしがみついた。

「ずっと一緒にいたい。司の側で幸せになりたい」

「真珠……?」

「せっかく、司に愛してもらえたのに、この先司と離れなきゃならない事があったら耐えられない」

ぐずぐずと、自然に流れる涙が司の肩に落ちて広がっていく。

喉の奥が熱くなって、感情が小さな塊になって押し寄せてくるようで。

詰まりながら声にすると、伝えたい気持ちの一部分しか言葉にできなくて、司への思い全てが伝えられないもどかしさ。

「仕事を辞めようって決めたのは今日だけど、ずっと悩んでた」

「それ、聞いてなかったし、気付いてやれなかった」

少し怒っているようで、それでいて申し訳なさそうな司。

私は、しがみついた肩に顔を埋めたままで首を横に振った。

「司は悪くない。だって、そんな気持ちに私が気づいたのも最近だもん。
私と離れたくないだけで、仕事に影響が出てもへっちゃらな司の事を大切にしたいし。それに。……奈々ちゃんだって」

「奈々ちゃん……って経理部の?」

「うん。彼女も遠距離を続けてきたけど、結婚するから仕事を辞めるし」

「おい、真珠と彼女とは違うだろ」

「ううん。一緒だよ。奈々ちゃんね、生活していく為に仕事をしてるって言ってたんだけどね、司を好きになったからかその意味が何となくわかる」

そう呟いて、ゆっくりと顔を上げると、目の前に司の心配そうな瞳があってとくんと鼓動が鳴った。