とりあえず顔だけ出そうかと口を開きかけた時。
「だーめ。一次会は我慢したけど、二次会以降は二人でするから遠慮してくれ」
いきなりの力でぐいっと腰を引き寄せられて、はっと驚く間もなくぽすっと暖かいものに包まれた。
「え、な、何……?」
思いがけない衝撃に、慌てて顔を上げると
「この先も総務部にいられるんだろ?ならカラオケは今度誘ってやってよ。
今晩は俺が連れて帰るから、悪いな」
にこやかに笑っている司が、目の前の後輩に力強い声でそう言っていた。
「司……どうして、ここに……?」
「ん?真珠からのメールを読んで思わずここまで迎えに来たんだ。
とはいっても総会の打ち上げなら真珠も参加したいだろうから、一次会が終わるのをずっと待ってたんだ。
というわけで、とにかく俺は腹が減ってるんだ」
ふふん、と余裕の声に、それまでの不安が一気に昇華していくのを感じながらも、やっぱり部内の面々の冷やかし気味の顔が並ぶ中では素直になれなくて。
「えー?私はお腹いっぱいなんだけど。仕方ないからお茶くらいなら付き合うよ」
ひとまずそう言って、精一杯の虚勢を張った。
……本当は、司が迎えに来てくれた事が嬉しくてたまらないくせに。
こんな時でも、やっぱり私は女王様かも。
言葉にした瞬間に『可愛げのない事を言ってしまったな』と後悔するくせに。
「まあ、俺は真珠と一緒ならどこでもいいけど、とりあえず、二次会は欠席ってことで」
私の言葉に動じない司にほっとしながら、それでもやっぱり照れくささは変わらなくて。
周囲のにやにやと笑っている様子にどう反応していいのやら。
視線を泳がせながら、苦笑していると。
「本当に、真珠さんと司さんって結婚するんですか?」
「いつから付き合ってたんですか?」
「仕事は続けるんですよね」
「司さんって、恋人いませんでしたっけ?」
さすが社内でも顔が知られている司だけに、簡単には解放してもらえなくて、ここぞとばかりに質問が投げかけられる。

