女王様のため息


入社してからの長い間、ずっと司が好きで好きで苦しかった。

どんなに親しくなってお互いを大切に思えるようになっても、司には美香さんがいた。

自分の気持ちは胸にしまっておくしかできない苦しみは、今思い返しても体中が痛くなるほど。

欲しくて欲しくてたまらないものを手に入れる事ができないのは、生きていても単純に呼吸をしているだけの日々だと言っても言い過ぎじゃない。

本当、あんな不毛な片思いをよく続けられたなあと、しみじみ振り返る事もあるけれど、結局今は全てがうまく収まって。

人生って悪いもんじゃないと、笑える。

だから、社内で私の結婚の話が広まっていて、恥ずかしくて照れくさくて仕事もしづらくて知らない人から声をかけられてエレベーターに乗っているだけで不躾な視線を浴びても。

どんなに面倒くさい状況に自分がいるとしても、それでもやっぱり今は幸せだ。

苦しくて切なすぎる時間を過ごしてきたから、今私に与えられた司との未来を心底大切だと思える。

それさえあれば、どんなにわずらわしい現状だって、些細な事だと。

そう思えるっていう事が、きっと一番の幸せだ。

「真珠さん?酔いましたか?お茶でも……」

「あ、大丈夫大丈夫、私の事は気にしないで部長たちのところに行っておいでよ。男は上司とのコミニュケーションは大切だよ」

しばし自分の思考の中にどっぷりとはまっていた私は、慌ててそう言った。

目の前で不安そうにしていた後輩は、しっかりとした口調の私に安心したのか、ほっと息をついて。

「男も女も関係ないですけど、とりあえず彼女との結婚の為に、出世もしないといけないんで、上司たちに愛想振りまいてきます」

いたずらっ子のような笑顔で席を立った。

「まあ、愛想なんて付随的なもんで、実際出世するには俺の能力ありきなんですけどね」

そんな生意気な言葉を残して。

それはまるで、司が普段口にする言葉に似ていて頼もしくも思えた。

若い男性特有の自信を背中に見せながら歩く後姿をぼんやりと眺めながら、司を思い出す。

異動の話がなくなった事をメールで伝えたけれど、返事がまだ来ないのが気がかりで、なんだか早く帰りたくて仕方がない。