女王様のため息



その後、部長は複雑そうな表情を隠す事なく経緯を話してくれた。

結果から言えば、私の異動はなくなった。

これまでと変わることなく総務部で仕事を続けられるらしいけれど、この先どうなるかは未知数。

未知数だとういうのは、全社員に当てはまる事であって、私一人がこの先ずっと現状の部署にいられるというものではない。

来月の大きな組織変更の中で、既に内定していた新しい研修部への異動以外に私を動かす時間がなかっただけで、今後についてはまだわからない。

とにかく、今は総務部に残って仕事を続けるという事らしい。

「で、どうして私の研修部行きはなくなったんでしょうか?」

突然のこの決定に、正直戸惑いの気持ちを隠す事はできない。

既に新居も見つけて決済願までまわしていたというのに。

異動に伴う影響は、私だけではなく司にまで大きく及んでいる。

というよりも、司の上司である相模さんの思いをも変えるほどで。

司の今後の仕事のあり方にも不安が生まれたというのに、今更どういう事なんだろうと、むっとする気持ちがないわけではない。

「もう、それなりに準備もしていたんですけど」

軽い不満を言葉にのせて呟くと、部長は苦笑しながらコーヒーを口にした。

「申し訳ないとは思うんだけど、俺にもどうしようもないんだよな。
上層部が決めたんだ、従うしかない」

申し訳ないと言いつつも、諦めや受け入れる事に慣れた口調には、長年サラリーマンをしていた年月を感じる。

きっと、今私が直面している状況なんて既に経験済みで、大した事ではないんだろうと。

少なからず社内でのあらゆる流れを見てきた私にもよくわかる。

でも、でも。

「新しい研修部に何が何でも行きたかったわけではないんですけど、どうして私ではなくて他の女性が最終的に選ばれたのかが知りたいんです。
私では役不足だったんでしょうか?」

「いや、研修部としては真珠さんがどうしても欲しかったんだ。
新しく立ち上げる部署にはそれなりに社内の事に精通している人材が欲しかったし、そろそろ異動の時期にきている真珠さんなら総務部も渋々でも手放してくれると思ったんだよ」

「じゃ、何故?」

私のキャリアが欲しかったのなら、どうして今更それを覆すんだろう。

私以上に能力がある女性を見つけたって事?