女王様のため息



部署内からの興味深い視線を浴びながら、足早に打ち合わせ室に入ると、部長がため息は吐きながらドアを閉めた。

「ま、座って」

8人掛けの机に向かい合って座ると、部長は私の手にあった決裁願をそっと取り上げて。

「この否決は、そのままの意味だ。昨日俺も聞いてびっくりしたんだけど、真珠さんの異動はなくなった」

嫌なことは早く済ましてしまおうとでも考えているのか、いつもより早い口調の部長をまじまじと見つめた。

椅子の背に体を預けて、ははっと笑っているその顔を言葉もなく見つめて。

「なくなったって、異動が、ですか?それとも、研修部じゃなくて他にいくんですか?」

ふと心に浮かんだ疑問を口にした。

大きな組織替えが予定されている今、研修部ではなくても他の部署に私が異動する可能性も大きい。

部長は、そんな私の不安に気づいたのか。

「異動自体がなくなったんだ。真珠さんにはバタバタとさせてしまって申し訳ない」

慌てて頭を下げた。

「あ、いいんです、部長が謝る以前の問題ですよね、きっと」

「まあ、謝って全てが落ち着くんだったら何度でも謝るんだけど。
俺も寝耳に水っていうか、昨日突然決まった事らしいんだ」

「昨日、ですか?」

「ああ、昼ごろ研修部の部長と人事部に呼ばれて、新しい西エリアの研修部には真珠さんではなくて、近くの工場から女性が異動する事になったんだ」