女王様のため息



そう言えば、今年の新入社員研修のアンケートでも上田さんと同じ気持ちを書いてくれた新人さんもいたっけ。

「私はもともと設計にもデザインにも興味はなくて……」

上田さんは、自嘲気味な声で続けた。

「会社の名前だけでとりあえず受けたら内定をもらって、ただそれだけで入社した私には設計の知識もなくて。
設計部の人たちが大きな顔をしているこの会社に入社した事を後悔してたんですけど、とりあえずお給料がないと暮らしていけないので頑張って。
でも、いつか真珠さんのようになりたいって思うと、この会社にいる未来の自分が想像できて楽になるんです。

だから……真珠さんが異動せずに本社に残るって聞いて、本当に嬉しいんです」

……は?

今、何て?

「私の目標である真珠さんの姿を、これからも間近で見られるのでほっとしました」

とりあえず周囲に聞こえないように気を配った小さな声だけど、私に届いた言葉の意味を理解した瞬間。

「えーっ」

届いた衝撃は、大きなものだった。

「ちょ、ちょっと、本社に残るって、それって……」

思わず上田さんの腕を掴んでにじり寄った途端に背後から届いた慌てた声。

「真珠さん、早く打ち合わせ室っ」

振り返ると、部長が私に向かって手招きしていた。

「話は俺からするから、上田さんは人事に戻れ」

どこか苦々しそうな声で、上田さんに声をかけた。

はっと気づくと、私の手が上田さんの腕を掴んでいて、急いで離した。

「あ、ごめんね。思わず掴んじゃった」

「いえ、私も余計な事をつい……。あまりにも嬉しかったんで」

申し訳なさそうな彼女の顔を見ると、冗談を言っているとも思えなくて更に混乱する。

本社に残るとか、異動しないとか。

「どういう事よ……」

思わず肩を落として、詰めていた息を吐いた。

それでも、とりあえず部長から話を聞かないと。

どんな展開になるのかおっかなびっくりだけど、新居の契約の決済願が否決された事を含め、何となく予想はできた。

「じゃ、ありがとう。部長と話してくるわ」

一応の笑顔を上田さんに見せたあと、私を待つ部長のもとへと足を向けた。

……本当、どういう事だ……。