女王様のため息


私の異動が決まって以来、少しもぶれる事なく私の側から離れないと言い続けている司に、安心感と嬉しさを感じる一方で、その事が司にもたらすマイナスを考えずにはいられなかった。

決して自分の仕事を貶めるわけではないし、こつこつと重ねてきた経歴に誇りも持っているけれど、これからの私の社内でのポジションよりも司のそれの方が大切に思える。

きっと、私よりも長く仕事を続けていくだろうし、出世しなければできない仕事も多い。

お給料やプライドだけではなく、充実した仕事をするための手段としての出世は欠かせないと思うから、どうしても司の未来を気にせずにはいられなかった。

私との結婚によって司の足を引っ張ってしまうんじゃないかと不安で仕方がなかったけれど。

思わずそんな私の深い悩みを吐露してしまって、一層司にいらない心配の種を植え付けてしまった。

俯く私の複雑な思いをわかっているのか、司はにやりと笑って小さく肩を揺らしている。

楽しげな表情で私に顔を向ける司には、そんな私の不安を重く受け止める様子は見られなくて、それが司の本音であればいいと思う。

私の気持ちを楽にしようとする為だけに明るくしているのなら、それは逆効果で、むしろ悲しくなる。

どこまでも落ち込みモード継続中の私には、司がどんな様子であっても気持ちを上昇させるなんてできないのかもしれない。

相模さんからも、『ただ愛してやれ』って言ってもらったばかりなのに、やっぱり私にはそれだけでは十分じゃなかったようだ。

「見くびってるんじゃねえよ」

私のそんな様子に呆れたような司の声に、はっと顔を上げると、顔を歪めた司がいた。