女王様のため息


「そうだな、相模さんだから良かったようなもんだけど。
でも、たとえ他の上司でも何か作戦を練って、真珠との生活を順調に進められるように画策すると思う。
仕事なんて、これからどれだけでも取り返せるけど、ようやく手に入れた真珠との新婚生活は今しかないからな」

「司、それって極端すぎるし、私との生活だってこの先長いから、あんまり無理しないで。それにまだ新婚じゃないし」

「ん?無理じゃないから。別に仕事を放棄するわけではないし、ペースを落としてみるだけ。
それに、真珠が喜ぶかもって思うとコンクールにも挑戦しようって思うし、今までより設計部内の俺の評価は高いぞ」

確かに、それは相模さんも言っていた。

コンクールもそうだし、仕事も前向きでレベルも上がってると言ってくれたけれど、目の前で本人がこうしてキラキラとした瞳で話しているのを見ると。

「私って、司の役に立ってるんだよね……?」

思わずぽろりとこぼれる私の言葉。

「あ、いや、違うの。役に立つっていうか、えっと、とにかく私は司の足を引っ張ってないんだよね?」

聞くつもりはなかった私の不安を、つい口にしてしまって、それにつられて私の表情からも笑顔は消えていくような気がする。

テーブルに置いた指先も少し震えてしまって、ぎゅっと両手を合わせて隠したけれど司はそれに気づいたようで。

「足をひっぱるどころか、こんなに震えてる真珠の手で俺は優しく後押ししてもらってるんだ」

司の手が、私の両手をぎゅっと包み込んでくれた。

微かに震えていた私の手に、司の愛情を注ぎこむような温かさ。

思わず気持ちが緩んでしまう。

決して悩んでいたわけではないし、四六時中司への申し訳なさに苦しんでいたわけではないけれど、無意識に司に尋ねた後ろ向きな言葉は、私の心の深い所に巣食っていたんだとわかる。