女王様のため息



「仕事をする一番の理由は、自分の生活を守る為に稼ぐ事だ。
どんなにやりがいがあっても、収入がなければ生活はたちゆかないし、長続きしない。
夢を叶えても、それが生活を支えるものでなければ意味がないと俺は思う。
たとえ、思い描いていた夢の方向性を変える事になっても、大切な人を幸せにするためなら平気だと思える強さが、いい仕事をする根源。
それが、今の司には満ちているんだ。
俺の何年か前の姿を見てるようでちょっと気恥ずかしいけどな」

黙って聞いている私に落とし込むようなゆっくりとした声が、じわじわと染み入ってくる。

相模さんの言わんとする事が、わかるような、わからないような複雑な思いだけれど、決して私を責める口調ではなくて。

逆に、沈んだ思いを拾い上げてくれるような。

そして。

「俺も、葵を手に入れる為なら仕事を変えてもいいと思ってたんだ。
まあ、そんな必要はなかったから、仮定の話だけど。
ちゃんと稼げて大切な女が側にいるなら、後はどうでもいいんだ。
司のそんな気持ち、ちゃんと受け止めてやってくれ。
真珠さんがいるだけで、あいつはいい仕事ができるはずだから。
たとえ引っ越して通勤に時間がかかることになったとしても、真珠さんが悩む事はない」

「相模さん……」

目の奥が熱くなって、今瞬きをすると涙がこぼれ落ちる気がする。

ずっと不安に思っていた司の将来の事を、簡単に笑って流してくれた相模さんの姿が滲んで仕方ない。

それでも、どうにか涙をこらえて相模さんに視線を向けると、途端に苦笑した顔が目に入った。

「あーあ。司が真珠さんにやられたのもわかる気がするな。
そんなに潤んだ目で見つめられたら普通の男なら一発だよ。
俺も、葵がいなければ、気持ちが揺らいでるはずだ」

大きく笑った相模さんの声も気持ちも優しくて、そう感じた瞬間、とうとう流れ落ちる涙。

司への思いを再確認して、そして。

その思いを手放さないでいい、側にいてもいいと。

相模さんに教えられたようで。

「司が相模さんに惚れてる気持ちが、よくわかりました……」

そんな私の言葉に照れ隠しの笑い声をあげた相模さんは、

「これからも、司の仕事は大丈夫だから、ただ愛してやれ」

ただゆっくりと、そう口にした。

きっと、その一言を言いたくて、私を昼食に誘ってくれたんだろう。

それに気づいた私は、往来の真ん中で、しばらく涙が止まらなかった。