「司は、相模さんに憧れて入社して。そして今はまさにその夢が叶った幸せ者だと思うんです」
ぽつり、呟いた。
「知ってる。あいつが入社した時、あれほど男から好意を寄せられて正直参ったよ」
「ふふっ。そうですね。相模さんの下で仕事をしたいって願いながら入社する新入社員が多い中で、あそこまであからさまにその気持ちを表に出したのって司だけですよね」
「だな。でも、あいつが前例になってしまって、あれから毎年そんな気持ちを露骨に出してくる新入社員が増えたんだ。
それも、まああいつの功績というか、前科というか。
それでも憎めない奴だけど」
ははっと笑いあいながらも、私の気持ちはどこか沈んでいく。
それほどの強い思いを抱えて入社して、念願通りに相模さんのグループに配属された司なのに、私の為に仕事への熱意が違う方向に向けられていると感じて苦しくなる。
私を愛してくれる事も、結婚して人生を共に歩もうとしてくれる事も私にとっては幸せ以外のなにものでもないけれど。
一方で、司にとっては私との結婚がプラスになるとは簡単に思えない。
私の異動によって、司に強いる負担は、司の仕事に大きな影響を与えるんじゃないかと考えずにはいられないし、相模さんからの期待をも裏切る事になると落ち込んでしまう。
「司に足りなかったのは、自分の為に仕事をするんじゃなくて、大切なものを守る手段として仕事をする積極さだったんだよ」
「え……?」
俯く私の気持ちを見透かすような相模さんの声に顔を上げると。
「何年か前に司と同じ思いを持った同じ男として言わせてもらうと。
真珠さんを愛する為に払う犠牲や労力は、司が得る幸せに比べたらほんのわずかなもので、取るに足りない」
その声に迷いは感じられなくて、そのまま聞き入った。

