苦笑しながらも、特に後悔もしてないような相模さんを見ながら、私は体勢を立て直して小さく息を吐いた。
もう、相模さんの中では、司とのやり取りは完結しているらしい。
今はただ茜ちゃんが暁に会える事を願っているだけだ。
「わかりました。こうなったら、暁には茜ちゃんが好きな曲を弾いてくれるようにお願いしちゃいます」
「え?本当か?いや、それは、あまりにも申し訳ないよ」
「いえ、とりあえず頼んでみますから、茜ちゃんが好きな曲を聞いておいてください。披露宴まではまだまだ時間があるし大丈夫だと思うんですけど」
「……わ、わかったよ。早速今日聞いておくから、頼んでみてくれ。
ありがとう、本当に感謝するよ」
「ふふっ。天下の相模さんも、娘さんには気をつかうんですね」
からかうような私の言葉は相模さんにはどうってことないようで。
「気もつかうし時間もつかうし。愛情だって無駄遣いしっぱなしだ」
社内で見せてくれる威厳のある表情とは全く違う顔。
でも、それもまた素敵で、通りをすれ違う人達が振り向いてはじっと相模さんを気にしている。
「まあ、葵への愛情は別格だけどな」
更に緩やかな声で、とろけそうな笑顔を浮かべる相模さんは、とても格好いい。
仕事での繋がりはそれほどないけれど、司を介して親しくなれた事を幸せに思えた。
暁だって、それに一役かってくれて。
この事も、今度言っておかなきゃ。きっと喜ぶはず。
温かい心で会社に向かっていると。
「司は、ようやく真珠さんを手に入れて落ち着いたんだろう、設計デザインコンクールにも挑戦しようかと言いだしてるんだ」
私の気持ちを探るように呟いた。

