「いや、そんな心配そうな顔をしなくていいから」
黙り込んだ私を気にして、相模さんがフォローの声をかけてくれた。
「本当、真珠さんには呆れられそうなんだけど、今日娘からの手紙を渡しただろ?
それだよ。それが、賄賂に関係してるんだ」
「は?手紙、ですか?」
さっき相模さんの娘さんの茜ちゃんからもらった手紙。
制服のポケットに財布と一緒にしまったけれど。
「これが、賄賂、ですか?」
「ああ。その手紙を読んでもらったらわかると思うんだけど、茜が神田暁の演奏を聴きたいっていう気もちは半端なものじゃなくてね。
それを知っていた俺は、司に披露宴の事を頼んだんだ」
「はい……それはさっき聞きましたけど」
ちゃんと、その事は理解して、茜ちゃんの願いを叶えてあげようと思う。
暁だって、悪い気はしないはずで。
でも、それがどうして賄賂になるんだろう。
「司は、神田暁の演奏を茜に聴かせてあげたいなら、俺が薦める現場の担当から外してくれって言ったんだ。
それをOKしなければ、茜を披露宴会場には呼ばないってにやにやするんだよな。
俺が茜の為ならなんでもするってわかってて、わざと条件に出したあいつが悪魔に見えたよ。全く」
「……司……はあっ……」
相模さんから聞かされた『賄賂』の真相に、私は一気に脱力して、立ち止まった。
前かがみになった私は、両手を膝に置くと大きく息を吐いた。
全く予想もしなかった司と相模さんとのやり取りに、心底驚いて言葉もない。
そんな交換条件なんか出さなくても、ちゃんと茜ちゃんを披露宴に呼んであげるし、第一、暁と友達なのは、私なのに。
呆れた。
「相模さんも、相模さんですよ……」
普段なら絶対に言わないだろう相模さんへの厳しい言葉だって思わず出る。
「・・・・・・だな。悪い」
一応、申し訳なさそうに呟く相模さんだけど、見上げると、単純に嬉しそうに笑っていた。
「悪いとは思うけど、やっぱり茜は可愛いし。頼むな」
茜ちゃんを想ってだろうけれど、その顔は『建築界の至宝』と呼ばれるものではなくて、単なる親ばかの顔だった。

