女王様のため息



目の前に並んだメニューは、野菜が中心の和食で、調味料もあまり使っていない素朴な料理が多かった。

ただ焼いただけのピーマンがどうしてこんなにおししいんだろうかとうなるほど。

「今朝早く採った野菜を送ってもらってるんですよ。
もともと司くんのご実家のお店が契約している京都の農家さんを紹介してもらって、ずっとお野菜はそこのをつかわせてもらってます」

店長さんが、相模さんに挨拶に来た時、そう教えてくれた。

私と変わらない年齢だろう店長さんは、和食のお店のイメージとは違う明るい色のエプロンを身に着けていた。

「司くんの婚約者さんですよね?一度写真を見せてもらいましたよ」

人懐こい笑顔は、客商売にはまさにうってつけという感じで、初対面の私に親しく声をかけてくれた。

「しゃ、写真、ですか?」

驚く私に、店長さんは思い出すように目を細めると。

「司くんのご実家で結納を交わされた時の写真でしたよ。
家族の皆さんと、仲人さんでの記念写真を自慢げに見せられました」

「結納の時……」

あー、あの集合写真か。

結納に関する全てが終わって、ほっとしたみんなで撮った記念写真は、恵菜ちゃんが疲れて眠っているほのぼのとした写真。

久しぶりに着せられた薄紫の振袖に窮屈な思いをしながらも、昔ながらの節目を感じる時間は新鮮で、司と結婚するんだな、と改めて実感できた。

仲人さんや結納を、今ではとりたてて気にかける事なく結婚を進める人が多いと聞くし、私も司も面倒だと思わないでもなかったけれど、

『すっげー感動した』

司が思わず口にした言葉は、私の心に浮かんだものと同じで。

というよりも、その場にいたみんなが感じた思いだったはず。

仲人を引き受けてくれた社長夫妻も目に涙を浮かべて大きく笑っていたっけ。

「司くんは、その時の写真をいつも持ち歩いてるみたいで、お店に来ていたお客さんにも見せびらかしてましたよ。
まあ、幸せに満ちたいい写真でしたけどね。
それに、真珠さん……ですよね。
美人だろーって力の抜けた顔で何度も言われました」

「は……ははっ」

店長さんのからかうような声に、乾いた笑いで答えるしかない私に、相模さんも苦笑しながら肩を揺らす。

司がそう言った場面を簡単に想像できるだけに反論もできず、ただ笑った。

そんな私に、店長さんは更に続けて。

「『ずっと欲しくてたまらなかった女と結婚できる俺って本当に幸せですよね』とも言ってましたよ」

そう言って、相模さんと頷くと。

「俺たちと一緒ですね」

二人揃って幸せに満ちた顔を向けてくれた。