女王様のため息


「わかりました。暁の演奏、ちゃんと茜ちゃんに聴いてもらえるように段取りしておきます。彼も小さなかわいいファンが来てくれると喜ぶと思いますよ。
良かったら、直接会えるように話しておきますけど?」

ふと思いついてそう聞いてみた。

すると、今までの落ち着いた相模さんとは違う、喜びを隠しようもない表情の男性が目の前に。

「あー、ありがとう。きっと茜も喜ぶよ。神田暁が昔使っていたのと同じモデルのヴァイオリンを買って大切に弾くくらいのファンなんだ。
ありがとう、本当感謝するよ」

興奮気味の相模さんは、ちょうど運ばれてきたランチを前に、相好を崩しては目を細めていた。

「さ、今日はもちろん俺のおごりだから、なんでも食べてくれ」

天下の相模恭汰のこんなに人間らしい顔、本当に貴重だな。

得した気分。

この顔もスマホで撮っておきたいな、と思いつつ。

司もきっとここまでの嬉しそうな相模さんの顔は見た事がないだろうと気づいて。

このことを、司に早く自慢したくてたまらなくなった。

そして暁にも、可愛らしいファンがいるよと、連絡しないといけないな。

その事が、何だか、とても嬉しかった。

暁から披露宴で演奏をしたいと連絡を受けた後、司も了解してくれたと返事をした電話の向こうの暁は

『せっかくの真珠の門出の日なのに、俺達がどうにか幸せを手に入れた事をみんなに知らせるための時間と場所を提供してくれて、ありがとう』

それ以上言葉を続けられなかった。

暁の傍らにいた伊織も、

『真珠、ありがとう』

涙声で一言だけ。

高校を卒業して以来、二人はずっと離ればなれで、何年も連絡を取り合う事もなかったと聞く。

どうして別れたのかも、何がきっかけで再び寄り添う事になって結婚まで至ったのか。

近いうちに会う事になっているからその時にゆっくりと教えてくれるらしいけれど、二人には二人の時間を過ごして、どんな過程を経たとしても。

今二人は幸せに暮らしているのなら、それでいいと思える。

私はもちろん、同級生みんなから好かれていた二人がたどり着いた明るい今を、本当に嬉しく思うから。

きっとつらい事も多かったはずの過去は、どうでもいい。

二人が乗り越えてきたに違いない切なさや苦しみを、私が正確に理解できることはないから、今二人が並んで笑っていれば、そして、その笑顔を見せてくれるのならば、それでいい。

だから

『幸せだって事をみんなに見せつけてあげてね』

それが全てだ。