司が一度決めた事をなかなか覆さない性格だと、入社してからの何年かで知っているし、きっと私以上に長い付き合いのご家族の方が尚更それはわかっているはず。
だから、この場にいるみんなの心境は『どうやって司を説得しようか』というものだけれど。
司はそんな私達からの視線を浴びて、一瞬眉を寄せながらも。
「じゃ、結納しよう。真珠のご両親とお兄さんの都合を確認しなきゃな。
で、あの結納品とかはどこで買えばいいんだ?結納金っていくらだ?」
私たちの思いをよそに、あっさりと呟いた。
「え?司、いいの?結納、してくれるの?」
表情も変えず、淡々とした様子の司は、慌てる私を怪訝そうに見た。
「だって、真珠は結納したいんだろ?憧れてたって言ってたし、しなきゃ結婚もしてくれないんだろ?」
「あ……うん、でも、だからと言って結婚しないわけでもないけど」
「真珠がしたい事はなんでもするって決めてるから。
母さんや姉さんがしろっていうからするんじゃない、真珠が望むから、結納もちゃんとする。それで真珠が喜ぶなら、なんでもしてやる」
「司……」
当たり前だろ、とでもいう口調からは、司と私が気持ちを寄り添わせてから何度か見せてくれる司の優しい愛情が感じられて胸がいっぱいになる。
私と一緒にいる為には、どんな重荷も受け入れて乗り越えていくという覚悟と、家族にさえ、その気持ちを隠そうとしない強さが、司から注ぎ込まれる。
「真珠が結婚式でゴンドラに乗りたいなら、乗ってもいいぞ」
肩を竦めて笑う司が、とても頼もしく見えて、そして愛しく思える。
「ゴンドラか……それもいいかもね」
ほんの少し涙声の私も、司の家族からの冷やかすような視線を気にする事もなく、自分の感情に素直にまっすぐに。
「私も、司が喜ぶなら、なんでもするよ」
大きく笑った。