女王様のため息


「じゃ、帰るね、司も気を付けて帰ってよ。着いたらメールして……あ、いい。事故なんてしないよね。メールも電話もいいから、早くゆっくりして」

二人きりの車内が何だか切なくて、思いっきりの笑顔を作った。

「私にメールする暇があれば、彼女にでも電話してあげてね」

思ってもいない言葉を早口で呟きながら、何とか司と目を合わせた。

本当なら、彼女に電話なんかして欲しくないし、ちゃんと帰れたのかどうか心配だから家に帰ったら電話が欲しい。

でも、それをお願いできる立場じゃないから、無理は言えない。

司には、私以上に大切にしている彼女がいるって事を忘れないようにしなきゃ。

顔に貼り付けた笑顔をそのままにして、シートベルトを外した。

そして、足元や座席の上に、何も忘れ物がないかを確認していると、

「俯いて、何してるんだ?」

司の怪訝そうな声が聞こえた。

「ん?忘れ物がないかと思って見てるんだけど、暗くてはっきりわかんないな。
私はアクセサリーもしないし、香水もつけないから、大丈夫だと思うんだけど」

「……は?アクセサリーとか香水ってなんだ?」

「えっと、何か落としたりして彼女が次にこの助手席に座った時に見つけたらまずいでしょ?司が浮気してるとか、余計な心配するとまずいから」

当たり前でしょ、とでもいうように答えると、司は黙ったまま眉を寄せた。

一気に機嫌が悪くなったのか、口元もぎゅっと結ばれたまま私を見ている。

というか、睨んでる。