司の突然の言葉には、とにかく驚かされた。
この場にいるみんなへの気遣いも何もなくあっさりと自分の気持ちを口にした司は、特にそれを大きな事とは考えていないようにお茶を飲んでいる。
「あーあ、この子がそんな風に考えてるって予想はしてたけど、結婚は真珠ちゃんの気持ちを優先して進めなくちゃ」
呆れたような恵さんの声が響いて、お義母さんやお義父さんからもため息がもれた。
全てが司への非難じみた、そしてあきらめにも似た反応だけど、こんな風に一方的に意見を言い捨てる司には慣れているようにも感じる。
確かに、会社でも猪突猛進、自分の意見をはっきりと口にしてしまう姿は何度も見ているから、慣れていると言えば慣れているけれど、司が今言った事は、家族への優しさも何もない、単に自分の要求を押し付けただけだ。
「司は、結納を交わしたくないんだね」
その場の雰囲気を気にしながら、小さく聞いてみた。
すると、司は大きく頷いた。
「姉貴が結婚する時のあの騒ぎを俺がまた体験するなんて思うと気分悪い。
っていうか、姉貴の場合、婿を迎える立場だったから結納金やらを持参して先方まで出かけてさ、ほんと、大変だった。
同じ事を俺がするなんてまっぴらだ」
「……そう。まっぴらなんだ」
「ああ。俺は、ちゃんと真珠のご両親には挨拶したし、賛成もしてもらえたんだから、別に形式ばって窮屈な事しなくてもいいだろ?」
小さなため息は、よっぽどお姉さんの結納の時に面倒な思いをしたんだろうと教えてくれる。
私への口調だけでもそれは露わになっていて。
「私の兄さんの時にも結納は大ごとで、一日仕事で、両家のみんなが集まるだけでも面倒だったけど」
私の言葉に頷いて『ほら見ろ』とでもいうような視線をご両親に向けている。
「けど」
そんな司を無視して、私は続けた。
「結納は確かに面倒だけど、それ以上に大変な事をこれから乗り越えていかなくちゃいけないかもしれないのに、結納くらいできなくてどうするのよ。
……どんなに面倒な事でも、私を手に入れるためなら受けて立つって言ってなかったっけ?」
「え……?真珠は、結納したいのか?」
私の言葉に驚いた司は、私に向かって身を乗り出した。
「うん、したい」
たったそれだけの言葉だけど、私の気持ちをこめてゆっくりと、そう告げた。

