司が生まれ育ってきたこの家族の中で、私はうまくやっていけるのか。
確かに不安は多いけれど、恵さんや光一さんが経てきた苦労を考えると、私の立場はまだまだ甘くて楽なものだと思えて、すっと心が楽になった。
老舗料亭なんていう今までの私には縁もゆかりもない世界は、心配や重荷としか考えられない。
司の家庭環境を聞かされて間がないというのも手伝って、緊張のみの私だったけれど、司の家族が温かく私を迎えてくれた事だけで一気に勇気が湧いてくるし、前向きな感情が生まれる。
司の事が好きで、一生一緒にいたい。
司のお嫁さんになりたい。
そう思う気持ちが強いから。
司と結婚する事によって背負わなくてはいけない気苦労や重荷があるとしても、そんなもの、ちゃんと引き受けてみせる。
たとえ、私の中にある力全てをつかって乗り越えなくてはいけない困難が待っていると、わかっていても。
それでも司と結婚したい。
……離れたくない。
そう思えるほどに司を愛しているから。
どんな面倒なことも受け止めてやる、と決めた。
司は私の隣に座って、ご両親や恵さんの言葉に拗ねたり怒ったり、私を気遣うような表情を見せてくれるけれど、どこか不安げに見えるその様子に。
『大丈夫だよ』
視線で安心させる言葉を投げかけた。
途端にほっとしたような光が瞳に見えて、私も嬉しくなる。
二人して笑いあいながら何度か瞬きをしていると、そんな私達をからかうようなお義母さんの声が聞こえた。
「あなた達が結婚するって決めたのなら、真珠ちゃんのご両親にご挨拶もしないといけないし、結納も交わさなきゃね。
でね、うちは年末年始に少し休む以外は無休なのよ。
結納の時はお店の者たちに任せるけれど、こちらの予定を出すから、申しわけないんだけど、その予定を参考に、ご両親と相談してもらえないかしら?」
「あ、はい。私の両親は時間に融通もきくと思いますので、相談してみます」
私が頷いた時、突然司が声をあげた。
「結納なんて、しなくていいぞ。いまどき結納を交わすなんて流行らないし面倒だろ。姉貴の時だって一日仕事で大変だったんだ。俺は遠慮するから」
司は、ずっとそう決めていたかのようにきっぱりと言い切った。

