女王様のため息



それからしばらくすると、お昼の忙しさも佳境を過ぎて、少し余裕ができた司のお父さんも顔を出してくれた。

司が年齢を重ねると、こんな顔になるんだろうなと思えるほどに表情がよく似ているお父さんは、私に少し照れながらも優しい声で。

「司はこの家の長男だけど、お店は姉の恵と婿が跡を継ぐから。店の歴史や大きさを重荷に感じずに、気楽に考えていい。
マイペースで強引な男だけど、根は悪い人間じゃないし、信用するに足りる男だから、安心して結婚してやってくれ」

私の向かいに座り、小さく頭を下げてくれた。

調理場からそのまま来てくれたとわかるその割烹着姿は違和感なくお義父さんに似合っていて、長年着てきたんだろうとわかるほどに自然だ。

お義父さんと一緒に挨拶に顔を出してくれた恵さんの旦那様の光一さんも、同じ割烹着姿。

このお店の調理人として働いている光一さんは、恵さんと恋に落ちて結婚に至ったらしい。

『お嬢さん』と調理人さんとの恋か……。

きっと障害もあったはずだろうし、光一さんにしても、結婚を決めるまでには悩みも葛藤もあったはずだろうと思う。

どちらかというとサバサバとしている恵さんと、眼光鋭く厳しい顔つきの光一さん。

二人が並ぶとかなりの迫力があって、喧嘩でもしたら、ふたりのうちどちらが強いのかと、ふっと感じてしまった。

二人が醸し出す強い空気感には誰もが一歩引いてみてしまうような鋭さもあって、このお店を盛り立てるために、頑張っているんだろうともわかる。

それと同時に、昔から続いている老舗料亭を守っていく誇りのようなものも見えて、いい夫婦なんだろうと、直感。

おまけに恵菜ちゃんというかわいい女の子も授かって、羨ましい限りだ。