女王様のため息

「えながいたら、おはなしできないし、つーくんはしーちゃんにおこられちゃうの?」

か細い声で呟く恵菜ちゃんは、私が司の頭を叩いた事に驚いたのかな。

恵菜ちゃんがいるせいで、そうなったんだと誤解しているに違いなくて、慌ててしまった。

「えなちゃんのせいじゃないんだよ。つーくんとしーちゃんはときどきふざけてあんなこともしちゃうけど、ほんとうになかよしなんだよ」

恵菜ちゃんの肩に両手を置いて、言い聞かせてみるけれど、いまひとつ腑に落ちない顔で首を傾げている。

「えなちゃんがいてくれたら、しーちゃんがしらないつーくんのこともおしえてもらえるし、しーちゃんはうれしいな。えなちゃんみたいにかわいいおんなのこといっしょにごはんをたべたらげんきもでるし。
えなちゃんがいやじゃなかったらいっしょにごはんたべようよ。
なにもしんぱいいらないよ」

視線の高さを合わせて、一語一語ゆっくりと言い聞かせると、恵菜ちゃんはしばらく何かを考えて。

どこか不安げだった表情が、次第に穏やかなものに変わっていった。

そして、思い返すように言葉が零れ落ちる。

「つーくんね、えほんをよむのがじょうずだよ」

「ほんと?しーちゃんにもよんでほしいなあ」

「それに、つーくんがつくってくれるおにぎりはおいしいの」

「おにぎりのなかにはなにがはいってるの?」

「たらこっ」

「うわあ、たらこおいしいよね。しーちゃんもだいすき」

「つーくんはなわとびもじょうずだしてつぼうもできるから、ほいくえんのさとるくんよりもかっこういいんだよ」

「さとるくんもかっこういいの?」

「うん。えなにいじわるだけど、ころんでないたらいつもきてくれるしだいすき」

だいすき、なんの戸惑いもなく教えてくれる恵菜ちゃんは、本当にさとるくんの事が好きなようで、にこにこ笑ったままだ。

早くも初恋なのかな?

ふふっと視線を司に向けると、複雑そうに恵菜ちゃんを見ていた。

もしかして、恵菜ちゃんがあっさりと大好きと言うさとるくんに嫉妬してるのかな。

……あーあ。