女王様のため息



司のお母さんが三代目女将をつとめる料亭は、5年前に改築したせいか、昔ながらのお店というよりは、どこか現代的な趣も取り入れられた居心地のいい空間だった。

料理の評価や、従業員の資質の高さも評判で、何度も雑誌にとりあげられるほどに名の知られたお店らしい。

けれど、料亭なんて存在に関係の薄い私には、そんな話をぽつりぽつりとする司に『へー、そうなんだ』と感嘆の声をあげるばかり。

確かに、目の前に並べられた料理の数々は、手を付けるのがもったいないほどに綺麗で、見た目だけで食欲をそそられる。

「改築の時には、相模さんも設計に参加してもらったんだ」

それまでのお店の事を話す司には、特に感慨深いものも、誇り高い思いも何も感じられず、事実をそのまま話しているだけという空気が漂っていたけれど、唯一相模さんという、司が慕ってやまない尊敬すべき建築士の名前を出した時。

「この店のファンだったらしくて、奥さんの葵さんも一緒に設計を手伝ってくれたんだ」

「そう、良かったね」

「ん、まあな」

私達が勤務している会社の顔ともいうべき相模さんは、世間でもその名を知られた有名な人だけど、設計に詳しくもなく、専門的に勉強をしたこともない私には、その素晴らしさがよくわからない。

なんていうと、司は悲しそうな顔をするのがわかっているから、敢えて言わないけれど。

そうか、相模さんが協力してくれてるのか。

「自慢の実家だね」

当たり障りなくそう答えると、満面の笑みを浮かべる司。

……なんて単純でかわいい。

その笑顔は恵菜ちゃんにそっくりだ。

ふふっと笑って、そっと隣を見ると。

私の隣に座って、大好物だという『炊き込みご飯』を美味しそうに食べている恵菜ちゃん。

「おいしいね」

と呟くその幼い笑顔は、本当、司に似ている。

「えな、おおきくなったらたきこみごはんつくるひとになるの。おみせのだいどころでいっしょうけんめいつくるの」

「え?おかみさんにはならないの?」

「うん。おかみさんになるとごはんゆっくりたべられないから。
えながたきこみごはんをつくって、おばあちゃんとおかあさんにたべてもらうの」

「そう、おばあちゃんもおかあさんもよろこぶね」

「おひるごはんゆっくりたべてないんだよ。いつもいそがしくてはしってるの。えなにはおみせではしっちゃだめっていうのに、へんでしょ」

子供ながらに、お店の様子をちゃんと見ている恵菜ちゃんの言葉に、向かいに座っている司は驚いたように箸をとめた。