女王様のため息



「ちゃんと笑顔で挨拶すれば、真珠ちゃんなら大丈夫。先方のご両親にも気に入られるよ」

「あ、おじさん。朝からごめんね、シフォンケーキもありがとう」

振り返ると、奥から海のお父さんが私たちを見ながら笑っていた。

海の背中に体を預けていた私は、慌てて体を立て直して苦笑い。

私と海がじゃれてる様子なんて、見慣れてるはずのおじさんだから、敢えて何も言わないと思うけど、今はなんだかこういう事はしてはいけないような気がして。

照れくささと申し訳なさを感じながら、自分の足元を見つめた。

「正直、真珠ちゃんが俺と嫁さん以外の人をお義父さんお義母さんって呼ぶことになるなんて悔しいよ」

「おじさん……」

私の目の前に立ったおじさんは、ほんの少しだけ眉を寄せて、唇もかみしめて、

「本当、こんなかわいい娘を取られるなんて、残念だな。
海と結婚して、堂々と『俺の娘』って自慢したかったのに。
結局、海とは縁がなかったのか……そういうことかな」

私の頭をぽんぽんと撫でてくれる仕草は、海にもよくある仕草で。

やっぱり親子なんだなあと、こんな時なのに、初めて知る。

「海と真珠ちゃんが結婚しないってのは、何となくわかってたけど、夕べ玲次くんから連絡を受けた時は、がっかりしたよ」

「父さん、今更なに言ってるんだよ。勝手に期待してたのはそっちだろ」

慌てて海が私の横に立つ。

私の腕を掴みながら、そっと守ってくれるように。

「俺と真珠には、結婚に向かう覚悟も、そこにたどり着くだけに足りる愛情はなかったんだよ、お互いに」

淡々と話す海の言葉に頷きながらも、わがままな私は、それがちょっと寂しく思えた。

『愛情はなかった』っていう言葉は、誰に言われても楽しいものじゃない。

司との結婚を決めたのは私自身で、それは同時に海との関係を『親戚』として不動のものにするという事。

その気持ちに後悔はないけれど、初恋に似た淡く切ない恋心を抱いた相手は、いつまでも特別だから。

海から距離を置かれるような言葉は悲しくて寂しい。

できれば、いつまでも私の近くで私を見守っていて欲しいと、そんな身勝手な思いを捨てきれない私のずるさと弱さを再確認して。

それが、司と結婚して幸せになる未来への第一歩だと実感した。