女王様のため息



そんな運命を私達が手にする事はなかったけれど、それでも海は私の大切で特別な人。

「ねえ海、今日一緒に来てもらうわけにはいかないけど、大丈夫」

海の背中をそっと撫でると、私には慣れっこの温かさが伝わってきてじわりほっとする。

どちらかというとその華奢な背中が、何度私を励ましてくれたか。

「高校の時から、私の側で私を育ててくれたのは海だよ。
勉強を教えてくれて、無事に大学に合格させてくれたのも海だし、お酒の飲み方も、上手に男の人からの誘いを断る方法も、教えてくれたのは海だし。
それに、女王様なんて言われるほどに強がりの私の脆さをわかってくれて、真綿のようにやんわりと包み込んでくれたのも海。
今の私を作り上げてくれたのは海なんだよ。
海の作品だって言ってもおかしくない私なんだから、絶対に大丈夫、安心して待っててよ。ね?」

思えば長い付き合いの海。

逆の立場なら、私も海にくっついて、結婚の挨拶に行く様子を見守りたいって思うのかも。

それほど、お互いの人生を干渉し合っても尚、物足りない思いを抱くほどの大切な人。

「海、ありがとうね」

相変わらず落ち込みが激しい海の背中にこつんと私の額を当てて。

何も言わなくても同じことが心を占めている事に、切なさと苦しみを感じながら、私達はこれまでとは違う、それぞれの時間が始まっていく事を受け止めていた。