女王様のため息



そんな平和な時間はあっという間に過ぎて、車は私のマンションの前に停まった。

恋人として付き合い始めてから間がないせいか、こんな時、司を私の部屋に誘った方がいいのかどうか、悩むところだけれど。

もう婚約者と言ってもいい関係だし。

もう少しこの幸せな気持ちを楽しみたくて、部屋でコーヒーでも誘おうとしたけれど。

「明日、10時頃迎えにくるから、起きてろよ」

司が私にさらっと言った言葉が、そんな私の浮遊感を断ち切った。

「え?明日?」

明日、何か約束してたっけ?

シートベルトを外しながら、思い返すけれど、とりたてて何も浮かばない。

どこか連れて行ってくれるのかな?

今までなら、当日時間ができた時にどちらかが誘うというのが多かったけれど。

事前にデートの約束をするっていう事だけでも、恋人同士になったんだなあと、実感する。

まるで十代の恋愛のようなときめき。

ときめきっていうのもこの年になると照れくさくて仕方がないけれど、どきどきとうきうきが合わさっているこの感情が新鮮で嬉しい。

一人甘い時間に浸っていると、そんな私の様子に呆れているかのような司のため息。

「俺の実家、挨拶に行くんだろ?」

私の頭に染み渡らせるように、一語一語ゆっくりとした口調で教えてくれた司は、私の頭を優しく撫でながら

「もう一仕事、頑張ろうな」

「……っごめん。すっかり忘れてた。そ、そうだよね、司のおうちにも行かなくっちゃだよね」

「行かなくっちゃ……だな」

司はくすくす笑うと、一気に青ざめた私を気遣うように明るい声で励ましてくれた。

「まあ、店は姉貴が継いで、子供もいるから、俺の両親も真珠の両親みたいにもろ手を挙げてなんて喜びは顔に出さないとは思うけど、反対する事はないから安心しろ」

「店……?お姉さんもいるんだ……」

「ああ。言ってなかったか?俺の実家は料亭をやってるんだ。
街からは少し離れた郊外だけど、それなりに知られてる店で、姉貴とその旦那が跡を継いでる」

「そうなんだ……」

司の事、何も知らなかった。

実家が料亭だなんて、それだけでちょっと腰がひけてしまうし冷や汗が出そうだ。

それに、お姉さん?

何も聞いてない、知らないよ。