「あー、うるさい。運転してるんだからおとなしく座ってろよ」
私の声が邪魔だと言うように、視線は前方に置いたままで司がそう言った。
投げやりな口調と、ほんのり赤くなった耳元に、ん?と首を傾げながらじっと見ていると。
さらに面倒くさそうにため息をついて。
「み、見るなよ。気が散るだろ」
少し慌てながら、とぼけた声が車内に響いた。
一般道路を順調に走る車は、次の物件に向かっている。
車内に漂う司の照れ臭さを隠そうとする空気に、三人でくすりと笑っていると。
相変わらずの軽い口調で、美香さんが言った。
「じゃあ、次の信号で止まったらちゃんと言ってあげなさいよ?
真珠ちゃんの事を大切に思い過ぎて苦しかったって。
他の男にとられるのが怖くてどうしようもなかったって。
私に言うんじゃなくて、ちゃんと本人に言ってあげて」
司を諭すような声に、後部席の美香さんを見ると。
確かに笑顔を作っているけれど、口元は微妙に震えているのがわかる。
その表情に違和感を感じて、目が離せずにいると。
「美香、それは俺らがいない時に、司が真珠ちゃんに言えばいいんだ。
二人きりの時にな」
春岡さんが、美香さんの肩を引き寄せながら静かに呟いた。
春岡さんの動きに素直に体を預けながら、すとん、とその胸に収まった美香さんは、その瞬間目を閉じて唇をきつく結んだ。
そんな美香さんを優しく見遣りながら、春岡さんの手は美香さんの手に置かれた。
「焦るなよ。ようやく軌道修正して、誰もが望む道筋をたどり始めたんだからな」
「あ、あの……」
春岡さんの言葉がよくわからないし、美香さんの様子にもおかしなものを感じた私は、どう尋ねていいかわからなくて、言葉も途切れ途切れ。
運転席の司を見ると、さっきまでの照れくささを浮かべていた表情は消えていた。
「司?」
「軌道修正か……そうだな。間に合って良かったよ。真珠が他の男にかっさらわれる前で、良かった」
私以外の三人には理解できているんだろうけど、私には何がなんだかわからない。
あまり楽しい話題ではなさそうだけど、私一人が蚊帳の外のような気持ちにさせられて、何だか落ち込んだ。

