視聴覚室に着くとすぐに、水瀬は私の手を離して中央の大きなテーブルに散らばった書類とにらめっこしている雅矢くんの元に駆け込んだ。

私はタダゴトじゃないと分かっても、ちゃんとした状況は理解できず、視聴覚室を見回す。


すると、いつもは視聴覚室にいてもろくに仕事してない尚人が、書類に何か書いている姿を発見した。

……やっぱり今日、いつもと違いすぎ。




水瀬と雅矢くんは剣幕なので、尚人に状況を聞く。


「おはよ、尚人。…どしたの?」

「おぉ、雨宮。今日は死ぬかもしれねぇぞ、俺たち」

「は、なんで――」

「早菜ちゃん、熱で休み」

「…」


驚いて、少しの声も出なかった。




早菜さんが休みなんて。

仕事においては、自分にも他人にも妥協のない早菜さんが。
本番とも言える今日に休むなんて。


今日は、有り得ないことだけが起こる日なの?




「昨日さ、」

「ん?」

「早菜ちゃん、38度近くあったんだって」

「え、嘘…!」


昨日は、私のクラスの意味不明なお化け屋敷にだって来てくれてたのに。
そんなそぶり、全然なかったのに。


「俺も、誰も気付かなかった。今日も解熱剤飲んで学校来ようとしたらぶっ倒れて救急車で運ばれちゃったんだって」

「救急車…?」

「そ。だから俺ら、早菜ちゃんの分の仕事も4人でこなさないとなんないの」


尚人があまりにも淡々と喋るから、あんまり大きなことじゃないように聞こえるけど。

でも、今日は、本当に死ぬかもしれない。