「早くしろよ」

「待って下さい!先輩」

先を急ぐ美奈子の後を、明菜は追い掛けた。

週末の街中は、行き交う人々でごった返していた。

スクランブル交差点を、美奈子と明菜は歩いていた。


「しかし、お前も物好きだな…。折角、大学を出たのに、わざわざ…うちみたいな貧乏劇団に、はいらなくても」

美奈子の言葉に、明菜は微笑んだ。

「いいんですよ。あたし、演劇が好きですし…自分の可能性を、せいいっぱい試したいんです。今もどこかで、頑張ってるあの人に、負けたくないから…」

明菜の言葉に、美奈子は振り返り、

「赤星浩一だったけ…。今思うと…本当に、あんなことがあったのか…信じられないな…」

振り返った美奈子を、見る明菜の目に、今の時間にそぐわない人物が映った。

明菜の動きが、止まる。


その人物は、信じられない動きで、人混みを擦り抜けると、明菜の横を通り過ぎた。

「こうちゃん…」

それは、学生服姿の赤星だった。


あり得なかった。

高校を卒業してから、もう四年はたつ。

赤星と異世界で別れてからは、五年近い。


だけど、今すれ違った赤星と思われる人物は、

あの頃と、まったく変わっていなかった。


まるで、時が止まったように。



天空のエトランゼ

〜悲しみの饗宴〜

幕開け。