簡単な機械の説明を受け、

少し稽古を見学しただけで、アルテミアは帰ることにした。

その理由は、簡単だった。

「お疲れ様です…」

裏方を受け持つ3人のうち、1人は女性だった。

今時珍しい分厚いレンズの眼鏡に、視線はなぜか下を向いていて、暗い印象を与える女。

劇団員…松野彩香。

「す、すいません…あたしも、今日は上がってもいいですか?こんなに遅くなると、思わなかったものですから」

アルテミアも慌てて、帰る準備をしだす。

「あっ!いいよ!今日は、初日だから…。明日、来れます?」

稽古を見ていた美奈子は、アルテミアに近づき、きいた。

「はい」

即答したアルテミアに、頷き、

「じゃあ…夕方五時に、来てくれるかな?」

「はい!」

アルテミアは返事をし、頭を下げると、

部屋から出ていった。


「あっ!」

明菜はアルテミアに、声をかけようとしたが、あまりの素早さに、タイミングを逃してしまった。

外まで、追おうか悩んでいると、美奈子が明菜の肩に手をかけた。

「明日も来るみたいだから…焦るな」

美奈子の言葉に、明菜ははっとし、美奈子の顔を見た。

美奈子は、ドアを見つめながら、ただ頷いた。