その為、小さな劇団は異様な雰囲気を、醸し出していた。

役者8人の内…3人が、女だった。

つまり、3人が、主役を巡って争うことになる。


団長である中山美奈子。

それに、斎藤春奈。

谷口美香。

その三人以外で、新人の明菜も候補に、一応は入ってはいた。

美奈子は、主役はやらないと公言しているので、

実際は、春奈と美香の一騎打ちになるといわれていた。


「あんたは、早いわ」

裏で、雑用をこなしていた明菜に、美香が突然、隣に来ると、上から目線で一言だけ言った。

癖一つないストレートの黒髪を翻し、美香はすぐに、明菜から離れていた。

すると、春奈が近付いてきて、

「何よね…あれ?同じ劇をやるのに、ぎすぎすして、どうするのよね。別に、主役じゃなくても、今回の劇ができるのは、名誉なことなのに」

妙に、愛想笑いを浮かべる春奈に、明菜も愛想笑いを返した。

大学の時は、劇団に所属してなくて、高校の時の雰囲気しか知らない明菜には、

美香や春奈のような役の取り合いに、まだ馴染めなかった。

「あなたも、多分…何か役を貰えると思うから、頑張って」

そう言って、優しさをアピールする春奈。

だけど、そんな春奈や美香を引きつらせる出来事が、起こった。


「突然だが…新しい仲間を、紹介する」

美奈子は、店に入ってくると、そこにいた劇団員全員に向けて、声をかけた。

「紹介しょう」

美奈子に促されて、ドアの向こうから、1人の女の子が入ってきた。

華奢な体に、黒髪をなびかせて、現れた女は、日本人には見えなかった。

「星野ティアナ…。ハーフです。よろしくお願いします」