「私は…香織を助けられなかった。この歳で働いて、得れるお金はしれてます。多分、あの子は…見捨てられたくなかったんでしょう。こんなところでも…」

やっと落ち着いたのか…涙を流しだした洋子に、僕は首を横に振った。

「君のせいじゃない。人間は、弱い。だけど、それを認め…立ち向かうことができるのは、本人だけだ」

僕は屈むと、洋子の涙を拭った。

「あなたは?」

「赤星浩一」

僕はそのまま、洋子の目を塞ぐと、

「今から、あなたの記憶を操作します。もう泣かないで」

「え…」

洋子は温かい温もりを感じながら、眠りについた。


気がついたとき、彼女は自分の家にいた。

そして、なぜか泣いた跡がある頬に触れた。






洋子をテレポートさせた後、僕は監視カメラに気付いた。

「心配するな。カメラの線から、力を送り、記録は破壊した」

アルテミアの声に頷くと、僕は人には見えない結界を張り、周りに燃え移らないように火をつけた。



燃え盛る建物を、遥か上空から見下ろしながら、

僕は携帯を開いた。

そこには、香織からのメールがあった。

やっと掴んだ心の安定が…お金が続かないために壊れていく恐怖と、

その気持ちに呼応するように、心の底から、

恐ろしいものが目覚めてきていると…。


「何かが起きている」

僕は携帯を閉じると、上空から消えた。



人の弱さを利用した…何かが。