亜梨沙は、走りながら、校門をめざしていたが、

なぜかついたのは、逆方向にある裏庭だった。

そこには、別名…三日月の泉といわれる小さな池があった。

この学校は、大正時代に旺盛を極めた財閥の離れを買い取り、校舎を建てていた。

その為、奧には、広い庭園が残されており、生徒達の憩いの場所になっていた。

その中でも、三日月の泉は一番奧にあり、一番人気もなかった。

それに、昔から水場にはいろんなものが、集まると言われている。


それに、何の水の流れもないのに、水が濁ることのない池は、いつも澄んでいた。

その為、こういわれていた。

この池は、何よりも汚れることを嫌う。

だから、この池に汚れている者の名前を告げれば、

その者の汚れを払ってくれるっと。

池のまで来た亜梨沙は、驚き、足を止めた。

「どうして……」

亜梨沙には、どうしてここに来たのか、わからなかった。

亜梨沙の周りを薄らと、霧が覆い始めた。

なぜか、足が池に向かって、歩きだした。

ゆっくりと、ふらふらと……。

そして、池のそばまで来ると、ゆっくりと水面を覗き込んだ。



いつも澄んでるはずの水面が、濁って、亜梨沙の顔が映らない。

「どうして……」



「それは、あんたが…もう汚れたからよ」

後ろから、声がして、亜梨沙は思わず、振り返り……そして、唖然とした。


「梓…」

霧の中から、死んだはずの梓が現れた。

「あんた…。あたしが、死んだらいいと願ったんでしょ」

亜梨沙は、胸をぎゅっと握り締め、少し後退りながら、叫んだ。

「そ、それは、あんたが、先輩をとったから!あたしを裏切ったから!」

その言葉に、梓はせせら笑った。

「裏切った?あんたが、もたもたしてるからでしょ?それなのに、あたしを恨み、あんたは…」

「あたしは、この池に願っただけ!あんたが自殺したのは、あんたの勝手でしょ?」

「何言ってるの……。あんた…覚えてないの?あんたが、あたしを呼び出したんじゃない……屋上に」

「え!」

そんな記憶は、ない。


いや…ある。

亜梨沙の頭に、記憶ができていく。