マスターは、苦笑しながら、美奈子の前に、コーヒーを置いた。

「でしたら…先先代の…おじいちゃんくらいからですよね」

美奈子は、コーヒーを一口すすった。

「やっぱり、おいしい!」

感嘆の声をあげる美奈子に、聞こえないように、

マスターは呟いた。

「私1人ですよ…」




「老舗の味ですね」

美奈子は、手に持ったカップを眺めた。

「あたしが、やってることも…ずっと続ければいいんだけど…」

と言うと、ため息をついた美奈子に、マスターは話し掛けた。


「失礼だと思いますけど…何をなさってるのですか?」

マスターの質問に、美奈子はクスッと笑った。

「大したことではないですよ」

美奈子は、カップを置くと、中の液体を見つめた。


そして、カップから真剣な眼差しを、マスターに向け、


「演劇です」