どうやって、さよならするのかは、思案中だった。

まったく誰も知らない土地に、行くのか。

まったく…誰もいない土地に、行くのか。


自殺する気はなかった。よくわからないけど…死んでからも、幽霊になって、今の自分のまま…彷徨うのは、絶対いやだった。

1人になりたいというのもあるけど…自分が、嫌いというのもあった。


今住んでるアパートを解約し、一応旅立つ。

あてはないけど、行動を示したかった。


ボストンバックに入った全荷物を提げて、さつきはアパートを出た。




駅の切符売場で、地図を見ていたが、行き先が決まらない。

ため息をついて、少し考えようと、さつきは目に入った喫茶店に、なぜか心がひかれた。

自然と足が向き…さつきは、喫茶店の木造の扉を開けた。


「いらっしゃいませ」

六席しかないカウンターの向こうで、笑顔のマスターがさつきを迎えた。


さつきは、マスターの笑顔に導かれて、カウンターに座った。


「何か…お悩みでも?」

注文せずにも出されたコーヒーの味に、感動したさつきは思わず、目を見開き、

「あ…え…えっと…」

マスターの優し過ぎる柔らかな笑顔に、さつきの口が勝手に、言葉を発した。




マスターは何度も頷き、さつきにおかわりを出した。

「つまり…あなたは、まったく違うところに行き…、まったく違う自分に、なりたいと」


さつきは、頷いた。


「あたし…自殺は、したくないんです。あ、あたし…。もし、自殺したら…その後始末は、大変だと思うんです。誰がするかは、わからないけど…迷惑は、かけたくないんです」


その言葉に、マスターは微笑み、

「簡単に自殺する者が、多い中…あなたは、変わってますね」

「自殺は、罪です!してはいけません」

きっぱりとした口調に、マスターは頷いた。

「わかりました。あなたの願いを叶えましょう」

「え」

さつきのカップを持つ手が、止まる。

「あなたは、気付いていないようですが…あなたは、素晴らしい力の持ち主なのですよ」