すべての授業が終了し、片付けを済まし、ゆっくりと教室を出て、とぼとぼ歩いていると

亜梨沙に、声をかけてきた人物がいた。

「野上くん!」

その声に、びくっと体を震わせると、亜梨沙は恐る恐る振り返った。

「先輩…」

180センチ近い長身に、眼鏡をかけた真面目そうな男。

男は、亜梨沙がでてきた教室内に、目をやり、

「…やはり、信じられないんだ。まだ……あいつが、梓が自殺したなんて…」

亜梨沙に話し掛ける男の名は、北川登。

亜梨沙の好きな男だった。

だけど、今は…見るのがこわい。

「死ぬ直前までは、あんなに元気だったの……。自殺する理由が、わからない。だから、親友だった君なら…何か知ってるんじゃないかと」

登の言葉に、亜梨沙は顔を反らした。

「知りません!だって……あたしは……」


亜梨沙の脳裏に、梓の姿が浮かぶ。



「大丈夫だって…ちゃんと、先輩との仲を、取り持ってあげるから」

笑顔で、亜梨沙に話し掛ける梓。

(それなのに…)

数日後…。

亜梨沙は、登と腕を組んで歩く梓を、目撃した。

次の日、教室で梓に詰め寄った亜梨沙に、

梓は悪怯れた様子もなく、

「ごめん!……でもね!そういうことって、仕方なくない?」

まるで、勝ち誇ったような顔…。

それが、亜梨沙には許せなかった。





「だって…あたしは、何も聞かされてないから」

亜梨沙は、鞄を抱き締めると、登から離れ、全速力でその場から、走り去った。

「野上くん!」

登は手を伸ばしたが、亜梨沙に届くはずもない。

その様子を、亜梨沙がいた教室から、覗く者がいた。

妙な視線を感じ、振り返った登は、その覗く者と視線があった。

その生徒は、すぐに教室の中に、戻った。

「今のは……」

登には、見覚えがなかった。

「転校生か…」