「まったく鈍いな!」

裏に回ると、

「おい!ジュース買ってこいよ!」

さすがに、金は出すが…自分の分だけだ。

仁志は、先輩の店員から金を渡されて、外まで買いに行く。

「おい!灰皿!」

ジュースを渡す仁志の後ろから、別の先輩が声をかけた。

灰皿の場所は、その先輩の後ろだ。


人は、誰かを捌け口にする。

それでも、仁志はそれもまた…人間社会での仕事と考えていた。

仕事を円滑に回す為の。

別に、目立った失敗もしていない。そつなく仕事をしていた。



「浅田…お前、ボーナスカットね。理由はわかるだろ?」

経費削減を上から、告げられていた店長は、

一番楽な方法を取った。

「大した仕事もしてないんだから」

不満も言わず、やめない人間を選んだのだ。



(贅沢をしなければ…大丈夫)

仁志は、文句も言わずに、店長に頭を下げた。

店内に出ていると、お客さんの数が減っていて、売上も落ちているのも、わかっていた。

店がなくなり、仕事を失うよりはよかった。

働ける場所がある。

それだけで、幸せだ。


仁志は、また仕事場に戻る。

新しい商品を並べ、在庫管理もいなければいけない。

お客と接客して、高額商品を売ることはなかったが、

自分が並べ、レイアウトした商品が売れて、減っていくことは、単純に嬉しかった。

それだけで、働く喜びを感じることができた。