彼女が去った屋上から、僕も消えようと、歩き出した。

すると、屋上に姿を見せる者がいた。

「赤星…」

入ってきたのは、同じクラスの松田真平だった。

松田は、僕の顔を見ながら、

「奥野さん……泣いていたけど…。どうした?」

松田の問いかけに、僕は首を横に振った。

個人的なことを、話す気にはなれなかった。

松田の横を、通り過ぎるようとする僕に、

「お前じゃないと思うが……奥野さんを泣かすやつは、許さないぞ」



「ああ……そうだな」

僕は呟くように言うと、屋上の出入口を、ゆっくりとくぐった。


下に伸びる階段を、一度足を止め、見下ろすと、

僕は、階段を降り始めた。


何かの違和感を感じ、足を止め、上を見上げたが、

灰色のドアの向こうに、少しだけ…空が見えるだけだった。

(ここにいるのか?)

微睡むような午後の雰囲気に浸らないように、僕は拳を握り締めた。

左手の薬指につけた指輪の感触を、確かめると、

僕は呟いた。

「ここには、何もないよ…」

しかし、誰も僕の言葉に、答えなかった。

ゆっくりと階段を降り、

僕は自分の教室に、向かうことにした。


階段を降り、すぐに右に曲がると、

1人の男とすれ違った。

「よお」

男は、一言だけ…僕に声をかけると、真っ直ぐに教室とは反対方向に、歩いていく。

僕は振り返り、男の背中を見送った。

男の名は、粟飯原健吾。

サッカー部で、180センチはある長身に、どこかに漂う妖しさの為か…なぜか、女子には人気があった。

その妖しさが、僕には気になったけど、調べても何もない。

(彼は人間だ…)

僕の直感が、粟飯原はシロだと告げていた。

(だったら……誰が?)

僕は前を向くと、教室に向かった。