勢いよく玄関の扉を開けると、ふわっといい香りがした。
なぜだろう?懐かしい感じがする。
そんなことを考えている暇は今の俺には無かった。
なにせ、オヤジと大ゲンカをして、さぁこれから家出をしてやろうと意気込んだ直後だったからだ。

「さっさと出て行け!!」

『うるせぇよ!オヤジなんか死んじまえ!!』

バタン!!!怒りと憎しみが生む出したこともない力で扉を閉めてやった。
扉の向こうで何かが倒れる音がした。恐らく、小さい頃水泳の大会で最優秀選手賞を取った時にもらった盾だ。
そんなことはお構いなし。とにかく一刻も早く家から離れたい。いや、一刻も早くあのオヤジから離れたい。その一心で走った。
中学一年から所属している陸上部の短距離で鍛えた瞬発力と加速力は誰にも負けない自信があった。

(誰にも…というよりこの場合はオヤジか。クソオヤジ!一生顔も見たくねぇ。)