いつの間にか、スウハさんがいなくなってて温かい湯気のでてる紅茶とマカロンがテーブルにあった。



ニナは今城下町に買い付けに行ってて、
スウハさんはたぶん数刻は来ない、
エルさんはよっぽどの用事がない限り来ないし、
魔王さんは、



―――暫く会ってない。



忙しい、らしい。
もうすぐしたら花嫁候補がたくさん、たくさん、お城にやってくるらしい。
そろそろお世継ぎを、と言われているらしい。
“陛下にはなつか様がいらっしゃるのに………”ニナがその情報と共にぽつりと呟いた言葉に苦笑いを返したのはつい昨日。



花嫁候補を迎えるために、何やらかんやらやっていてお昼寝の時間さえとれないらしい。
なんとなく、あの穏やかな時間を惜しんでは諦めに似た感情を持て余してる。



でも、よかったかもしれない。 
こんな揺れてるときに魔王さんに会っていたら私はあのひととの約束も魔王さんに対してもどうしようも出来なくなって全てを棄ててしまいそうだったから。



「―――」


微かに音を乗せた空気に自嘲して、泣きたくなる。
ソファーで独り、スウハさんが淹れてくれた紅茶にも手を着けないで膝を抱え込む。



そうすると、自然と溢れてくる涙。
小さな頃からの癖。
自らを護る殻、に入り込んで他者を拒絶する。
そんな癖を包んでくれたあのひとは―――







――――



「………っ、逢いたいっ………、逢いたいっ、……」


はらはらと、頬を伝う涙が膝を濡らしてく。




張り裂けそうな程の胸の痛みも
ひきつる音しか出せなくなる叫びも
重力に従って止まってくれない涙も



ぜんぶ、ぜんぶ、



貴方が私に置いていったもの―――





「、逢いたい………逢いたいよ………っ、コウくん、………!」





今は、ただ。



貴方に、逢いたい―――………