高校三年で高嶺の花の彼女とやっと同じクラスになれたことが、俺の今年一番の幸せだと言っても過言ではないほど、彼女は俺から遠かった。
「朱〜!帰ろ!」
「ごめん!玄関で待ってて」
 春日 朱音は申し訳なさそうに友達に言った。
「また?」
 また、というのはきっと「また告られたのか」ということだろう。
「本当にごめんって。すぐ戻るから」
 春日朱音がそう言った瞬間、俺のグループの間を視線が飛び交った。
 俺たちはグループのうち、俺を含む三人で彼女の後を付けた。
 彼女の後ろをある程度の距離を保ちながら彼女をつけると、人気の全くない階段の踊場に行き着いた。
 そこには後輩らしき小さめの男の子が恥ずかしそうに立っていた。
「おいっ、あれ一年だよな」
「可哀想に。入学してすぐに振られようとは」
「静かにしろよ。バレるだろ」
「……急にごめんなさい」
 男の子がおずおずと口を開いた。
「僕とつきあっ―」
「ごめんなさい!」
 男の子が言い終わらないうちに、春日朱音は返事をだした。
 男の子は今にも泣き出しそうだ。
 俺たちはどちらかがこっちに戻ってくる前に走って教室に戻った。